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ここ何日間か、MMT論者と貨幣の起源についてツイートしてきた。MMTは、貨幣=負債論が根拠となっており、それは現代では成立する。MMTは、〈現代〉貨幣理論だから、アタリマエといってはアタリマエなのだが…。

しかし、彼らは、これを過去に遡って、貨幣の起源からそうだったとするので、やっかいだ。オイラ的には、共同体〈内〉と共同体〈間〉に分け、交換は共同体〈間〉で始まり、共同体〈内〉では貨幣が成立する要素がそもそもない。のちに貨幣経済が浸透するが、それは共同体〈外〉からやってきたと考えている。



この点、信用取引から貨幣が生じたとする貨幣=負債論者に対して、安冨氏は信用と貨幣は別物と考えているらしい。


なぜ、貨幣が生まれたかについて、フランスの哲学者で批評家ジャン=ジョゼフ・グーは、貨幣のような〈一般等価物〉は人間の〈象徴化能力〉の産物であると考えている。

 マルクスの価値形式論を象徴秩序全体の解明にモデルとして適用することができるのは、グーによれば、あらゆる社会関係が「交換のシステム」を形成しているからである。そこで、彼はマルクスにならって、商品の交換という場面から出発する。商品というのは当然ながら種々雑多なものからなっているので、それらのあいだの交換が成立するためには、なんらかの「等価性」ないしは「同一性」の存在が要請されなければならない。たとえば、鶏1羽と米2キロが「等価」である、というように。人間の交換活動は、このようにそのつど等価性の基準が変移する「物々交換」から始まったわけだが鶏1羽は米によって価値を測られることもあれば、その他のもの、たとえば芋や魚によって価値を測られることもある―最終的には、あらゆる商品の等価性を決定する基準として、貨幣(とくに金貨)という〈一般等価物〉が成立することになる。貨幣があれば、どんなに異質の商品でも同一の基準のもとに数量化され、同質的な「価値」をもつので、人々は円滑な交換活動を行なうことができるのである。われわれは、鶏1羽も米2キロも、またコーヒー3杯も本1冊も、すべて同じ「1000円」として、等価値のものと見なすことができるのだ。このような交換のシステムが成立するためには、それまでは一個の商品にすぎなかった金が、それ以外の商品のかたちつくる空間から排除されて、いわば「超越的」な存在としての貨幣に変身することが不可欠の要因である。一般等価物とは、したがって、ほかのすべての商品にたいして神のような超越的「第三項」として君臨することによって、それらの交換関係(相対的な価値)をとりもつ「媒介者」のことにほかならないのである。

     (中略)

 グーによれば、こうした象徴秩序の成立が可能なのは、われわれ人間が「象徴化能力」という特異な能力をもっているからだ、という。象徴化能力とは、現実に存在するありとあらゆる差異・変化のなかから「不変のもの」、「同一のもの」を取り出す能力のことである。いいかえれば、それは多様なるもの、異質なるもの、すなわち「他なるもの」のなかに「同一なるもの」を見いだしたり作り出したりしてしまう、われわれ人間のもついわば病的な傾向のことにほかならない。この象徴化能力によって抑圧・排除されるのは、差異と多様性の担い手である(対象の)マチエール(物質性)と(対象を生産したり交換したりする主体の)であり、この抑圧・排除とひきかえにさまざまな「不変項」―価値、形式、意味、本質、概念など―のシステムが構築されるわけだ。『マルクス、フロイト』当時のグーは、デリダによる西洋形而上学解体の作業と連動しながら、マルクスの「史的唯物論」の立場にたって、このような象徴化機能、すなわち主体たちのいきいきとした関係・活動・力の「物象化」によって成立する〈一般等価物〉を批判し、またそれにたいして盲目的なへーゲル的「観念論」をあわせて批判することに力をそそいでいた、ということができる。

立川健二・山田広昭[著]『現代言語論 ―ソシュール フロイト ウィトゲンシュタイン』(新曜社、1990年) p.69-72

グーは、性における「男根中心主義」や、西洋人の言語活動における「ロゴス中心主義」もまた、人間の〈象徴化能力〉が産み出した〈一般等価物〉、つまり男根とパロール(音声言語)という抑圧的な超越性に従属しているからだと論じている。

そして、〈一般等価物〉は、あらかじめ存在していたのではなく、二次的に生成されたものにすぎず、社会的関係が「物象化」してできたもの、すなわち「フェティシズム」の産物にすぎない、と暴露した。

世界恐慌の結果、金本位制が崩れ、管理通貨制度が成立すると、金という〈一般等価物〉は不要となった(戦後のブレトンウッズ体制で部分的に生き残る)。さらに、ニクソン・ショックで金とドルの兌換が停止すると、完全に消滅してしまう。

グーは、金本位体制の崩壊が文学におけるリアリズムの解体とほぼ同時に進行したと『言語の金使い ―文学と経済学におけるリアリズムの解体』(土田知則[訳]、新曜社、1998年)で論じたが、なぜか〈一般等価物〉をノスタルジックに論じ、その変質を示したという(立川・山田、前掲書)。

2019.07.05 | ├ 経済の基本 | トラックバック(0) | コメント(0) |

ベーシックインカム論者の「のらねこま」氏がつくった動画。


政府の借金を返済すると、世の中のおカネが消えてなくなります。そうすれば間違いなく景気が悪化します。そもそも世の中のすべてのおカネは誰かが借金することで作られるのですから、政府の借金を返してはならないのです。日銀が国債を買い取って保有すれば良いだけです。

現代の通貨制度=管理通貨制度の下では

   おカネの総量=政府+企業+家計の借金

となる。

おカネの総量が増えないと景気が良くならない。企業と家計が借金を増やせない場合、政府が借金を増やさないと、おカネの総量は増えない=景気は良くならない。

企業と家計が借金を増やせない状態で財政再建する(=政府の借金を減らす)と、おカネの総量が減ってしまい、ますます不景気になる。

景気が良くならないと、企業や家計は借金できないので、財政再建できない。


ついにオイラもMMT(現代貨幣理論)に毒されてきたぞ。w

2019.04.25 | ├ 経済の基本 | トラックバック(0) | コメント(0) |

以前、クォーターグリットシステム(QGS)を紹介した。

クォーターグリッドシステム(QGS)

今回は、それを円グラフ化し、その意味を考える。

続きを読む

2019.03.14 | ├ 経済の基本 | トラックバック(0) | コメント(0) |



YouTuberになったのらねこま氏の動画「世の中のすべてのカネが借金」。



2019.03.08 | ├ 経済の基本 | トラックバック(0) | コメント(0) |


ウェルスナビCEO・柴山和久[著]『元財務官僚が5つの失敗をしてたどり着いたこれからの投資の思考法』(ダイヤモンド社、2018年)を読んだ。

柴山氏によると、「人間の脳は資産運用に向いていない」のだそうだ。なぜなら、《安く買って、高く売る》が金もうけの基本なのに、人々は、株価が上がると買いに走り、下がると売って、大損をするからだ。

柴山氏によると、「長期・分散・積立」が資産運用の基本で、世界の富裕層はこの方法で資産運用をしており、1992年から25年間続けた結果、資産は2.4倍になっている! トマ・ピケティ『21世紀の資本』で有名になった“r > g”(r:資本のリターン、g:経済成長)はこうして実現したのだ。

日本は、「失われた20年」で、これとはまったく違った「短期・集中・一括」で大爆死する例(「○○危機」「××ショック」ってヤツ)ばかり見せられ、ビビり抜いた結果、「流動性選好」(とにかく現金を持ち続ける)に陥ってしまった。←これはオイラの考えw

日本政府の年金基金(年金積立金管理運用独立行政法人 GPIF)が、債権から株に運用を移行すると発表したとき、年金基金側は「長期・分散・積立」の安全運転で“r > g”を目指しているのに、国民は「短期・集中・一括」で大爆死をイメージして反対した。w

年末に株価が下がったときもこんなツイートが…。



世界中の年金基金がやってるのと同じ方法を採用しているのに、日本だけバカなことをしていると経済ジャーナリストも思いこんでいる。w

で、株価が2万円を回復したときも、年金基金が(アベノミクスの失敗を隠蔽するために)買い支えしていると考えてしまう。

《安く買って、高く売る》の原則どおりに、株価が下がったから買っただけだろ。w

やっぱり「人間の脳は資産運用に向いていない」ようだ。w

2019.01.03 | ├ 経済の基本 | トラックバック(0) | コメント(0) |

1.デリバティブ

デリバティブとは金融派生商品である。派生商品なので、派生する元が必要で、原資産は株式、株式指数、石油、小麦などさまざまである。

デリバティブができた背景にはリスクの増大がある。1970年代初めの変動為替相場制への移行がリスクを回避(ヘッジ)するための商品や手法を要請し、それらが開発された。

デリバティブには、先物取引スワップオプションと、それらの組み合わせがある。


2.先物取引

先物取引は、原資産の価格が、将来、上昇すると予想するなら先物買い、下落すると予想するなら先物売り(空売り)する。先物買いは、価格の上昇を予想して、安値で買う約束をして、安値で買った商品を上昇した価格で売って利益を得る。先物売りは、価格の下落を予想して、高値で売る約束をして、下落した価格で買った商品を高値で売って利益を得る。




3.スワップ

スワップ取引とは、将来の特定期日にある対象物を交換することである。ここでは、金利スワップと通貨スワップについて説明する。

(1)金利スワップ

1)ある会社が、固定金利で資金を調達したいと考えていたが、変動金利でしかできないことを知り、A銀行から変動金利で調達した。2)あきらめきれない会社は、B銀行との間で、固定金利を支払い、変動金利を得る契約を結んだ。3)その結果、下図のように、変動金利部分が相殺されて、実質的に固定金利をB銀行に払うこととなった。



(2)通貨スワップ

日本企業が、アメリカで資金調達しようとしたが、知名度が低く、うまくいかなった。反対に、アメリカ企業が、日本で資金調達しようとしたが、同じく知名度が低く、うまくいかなった。日本企業もアメリカ企業も、自国で資金調達し、元本と金利を交換すれば、双方にメリットがある。




4.オプション

オプションは、一種の「保険」で、株式・為替・金利といった金融資産を対象としたリスクに対するヘッジ(回避)手段である。株のオプションであれば、将来の株価下落のリスクに対するヘッジ手段として、オプション契約を結ぶ。

たとえば、1年後に株を1200円で「買う権利」=コールオプション(「売る権利」=プットオプション)を購入する。株価が、1500円になれば300円の得なのでオプションを行使し、800円になれば400円の損なのでオプションを行使しない(左図)。ただし、オプション契約にお金=オプションプレミアム(250円)がかかるので、実際は右図のようになる。

2017.12.02 | ├ 経済の基本 | トラックバック(0) | コメント(0) |

1.景気変動と景気循環

(1)景気変動

 天気に晴れや雨があるように、経済にも好・不調の波がある。成長率が高く、経済が順調に伸びていれば、好景気(好況)といい、成長率がおちれば、不景気(不況)といわれる。これを景気変動という。

 この景気変動は、好況・後退・不況・回復という4つの局面をくり返すので、景気循環ともいう。

 好況のときには生産も売り上げも伸びるから、国民所得はふえ、企業の倒産や失業は少ない。景気の後退期には、生産は減退し、企業の倒産や失業がふえる。この後退が急激におこって経済が混乱するのが恐慌である。恐慌後の沈滞した経済状態が不況で、これはやがて回復にむかい、再び好況期がやってくる。

(2)景気変動の波

 景気変動の循環の周期は規則的な性質をもっている。表の4つが有名である。




2.景気変動の原因

 資本主義は市場経済であって、社会全体の生産と消費、需要と供給の調節は価格の機能にゆだねられている。

 たとえば好況期には、売れ行きがさかんで物価は上がるから、企業は争って生産を拡大し、設備投資をどんどん行う。投資がふえれば、機械や原材料などに対する需要もふえる。

 ところが、投資が一段落すると需要はへり、逆に新設備が動きだして供給がふえるから、生産過剰になってしまう。生産過剰になれば価格は下落するから、予定していた売上げ金は回収できず、資金繰りのつかなくなった企業はつぶれ、失業がふえる(後退)。こうなると、産業界は生産を縮小し、投資をひかえるから需要はますますへる(不況)。

 しかし、供給が減って滞貨がさばけると、需給のバランスも回復し、商品価格も上向くから、再び生産の拡大や投資が活発となり、景気は上昇する。


3.世界恐慌

 資本主義が最も早く発達したイギリスでは、1825年に最初の過剰生産恐慌がおこり、それ以後、ほぼ10年に一度、恐慌にみまわれている。その他の資本主義国でも、恐慌がおこり、しかもこの恐慌は、貿易を中心とした国際経済の結びつきによって連鎖反応をおこし、
世界恐慌という形になって世界経済を襲った。とくに1929年の場合は、世界大恐慌といわれるように史上空前のものであり、発端となったアメリカ経済を例にとると、国民所得は半分にへり、失業率は25%に達するというすさまじいものであった。

2017.11.27 | ├ 経済の基本 | トラックバック(0) | コメント(0) |

1.経済成長率

 人間の身体的成長は身長や体重で計るが、経済の成長は、国内総生産(GDP)の伸び率=経済成長率で計るのがふつうである。
  1. 名目成長率…物価の変動を考慮しない名目GDPの伸び率で計算したもの。
  2. 実質成長率…物価の変動を考慮した実質GDPの伸び率で計算したもの。

 なお、実質GDPを求めるには、名目GDPをGDPデフレーターで割り、100をかける。

   経済成長率=(本年のGDP-前年のGDP)÷前年のGDP×100

   実質GDP=名目GDP÷GDPデフレーター×100

 たとえば、物価が2%上昇したら、GDPデフレーターは102、3%下落したら、97として計算する。

【名目GDPと実質GDPの推移 兆円/年度】


【名目経済成長率と実質経済成長率の推移 %/年度】



2.経済成長の条件

  1. 国内総生産が伸びるには、拡大再生産が必要である。
  2. 拡大再生産には、工場を拡張したり、新しい機械・技術を導入するための純投資が行われなければならない。
  3. 純投資の実現には貯蓄の役割が大きい。

2017.11.27 | ├ 経済の基本 | トラックバック(0) | コメント(0) |

豊かさの指標

 国内総生産(GDP)には、その国の環境が悪化して対策費用がかかればかかるほど、GDPは大きくなるといった問題がある。また、国富は、土地の値段が上がれば上がるほど、ふえるという矛盾がある。そこで、真の豊かさを表す指標づくりが試みられるようになった。

(1)国民純福祉

 1970年代に、主婦の家事労働やレジャーなどの余暇時間をプラス項目とし、環境汚染や都市化にともなう損失などをマイナス項目として、国民純生産(NNP)に加味することが試みられた。これが、国民純福祉(NNW)である。今日では、環境から得る利益と環境に対する負荷を比較計算する環境会計の考え方も重要になっている。

(2)グリーンGDP

 近年は、国内総生産(GDP)から環境汚染や土地開発と森林伐採による生態系の破壊、地下資源の枯渇などのマイナス要素を差し引いたグリーンGDP(EDP)の考え方が提唱されている。

(3)人間開発指数

 人間開発指数(HDI)は、パキスタンの経済学者マプープル=ハクによって1990年に考案され、1993年から国連年次報告の中で公表されている。これは、人々の生活の質や発展度合いを示す指標であり、平均余命指数、教育指数、GDP指数の平均から求められる。

2017.11.27 | ├ 経済の基本 | トラックバック(0) | コメント(0) |

1.フローとストック

 国内総生産や国民所得は、経済活動を貨幣の流れ(フロー)としてとらえたものである。個人でいえば、月給や年収などの“かせぎ”にあたる。しかし、生活していく上には、住宅や家具などの資産(ストック)もなくてはならない。生活の豊かさをみるためには、過去からの“たくわえ”であるストックも必要なことがわかるであろう。
  1. フロー…ある一定期間に産出された経済数量。マクロでは国民所得・国民総生産など、ミクロでは売上高・賃金などを指す。
  2. ストック…ある時点に存在する経済数量。マクロでは貨幣供給量・外貨準備高など、ミクロでは資本金・負債残高などを指す。

 このストックを国全体で合計したものが国富(国民資本)である。これが、国民所得を生みだす元本であり、新たに生みだされた国民所得の一部が消費されずに蓄えられて増加していく。


2.日本の国民資産

(1)国民総資産

 有形資産などの非金融資産と金融資産の合計額を、国民総資産という。有形資産は、純固定資産(建物・機械など)、在庫、再生産不可能有形資産(土地・森林など)を指し、金融資産は、現金・預金、貸出金、株式、債券などをいう。

(2)国民純資産

 ところが、金融資産というのは他の誰かの負債であるから、国全体としては正味の資産とはいえない。そこで、非金融資産に対外純資産(=対外資産-対外負債)を加えたものを国民純資産といい、これがふつう国富とよばれるものである。

(3)日本の国富の特色

【日本の国富 兆円/暦年】


 日本の国富は、土地の値段が外国にくらべて高く、その比重が大きかった。非金融資産のうち土地が占める割合は、1994年には56%もあったが、2015年には39%に低下している。これに対して、金融資産は1.6倍も増え、対外純資産も4倍以上増加した。

 国民一人あたりの国富は2600万円にも上る。しかし、住宅や公共施設などの社会資本の整備がたち遅れているともいわれている。社会資本には、道路・港湾・工業用水道などの産業関連社会資本と、住宅・公園・上下水道などの生活関連社会資本とがあり、とくに後者の整備が遅れている。

2017.11.27 | ├ 経済の基本 | トラックバック(0) | コメント(0) |

1.三面等価の原則

 生産によって得られる所得はすべて分配され、分配された所得は貯蓄を含めて何らかの形で支出される。したがって、国内総生産も生産・分配・支出という三つの側面から集計される。これらは、同じものをそれぞれ別の面からとらえたものであるから、同額である。これを、国内総生産の三面等価の原則という。

(1)国内総生産(GDP)

 国内総生産は、第1次・第2次・第3次産業がそれぞれ産み出した付加価値の合計である。

【名目国内総生産 2015年 10億円】


(2)国内総所得(GDI)

 産み出された付加価値は、賃金・利子・賃貸料として家計に、税金として政府に分配され、残りは企業の利潤となる(一部は配当として家計に分配される)。国内総生産は家計、政府、企業へと分配された付加価値の総和と定義できる。これが国内総所得(GEI)である。

【名目国内総所得 2015年 10億円】


(3)国内総支出(GDE)

 家計、企業、政府が最終財・サービスを買ったときに支払った支出をそれぞれ消費支出、投資支出、政府支出という。また、外国が、買ったときに支払った価額を輸出、売ったときに受け取った価額を輸入という。家計と政府の最終消費と企業の投資(総固定資本形成)に輸出を加えて輸入を差し引いた価額を国内総支出(GDE)という。

【名目国内総支出 2015年 10億円】



2.ISバランス

 家計・企業など個々の経済主体の行動の分析から、全体としての市場および経済の分析にいたる経済学をミクロ経済学という。これに対して、国民所得や全体としての投資・消費といった集計概念を用いて経済活動を分析する経済学をマクロ経済学という。

   Y:国民総支出、C:民間消費、S:民間貯蓄、T:租税、
   I:民間投資、G:政府支出、EX:輸出、IM:輸入

とすると、つぎの式が成立する。

   Y=C+S+T……1)
   Y=C+I+G+(EX-IM)……2)

1)と2)から、以下の式が導き出される。

   S-I=G-T+(EX-IM)……3)

3)は、民間貯蓄超過(S-I)が財政赤字(G-T)あるいは貿易黒字
(EX-IM)を産み出すことを意味し、ISバランスという。

2017.11.27 | ├ 経済の基本 | トラックバック(0) | コメント(0) |

1.国内総生産と国民総生産

(1)国内総生産(GDP)

 1年間に一国内で産み出された財とサービスの総額を国内総生産(GDP)という。これは、1年間の生産活動で新たに産み出された粗付加価値の合計を意味する。すべての生産物の売上高を単純に累計した場合、原材料や半製品など中間生産物の価額が含まれてしまうので、重複をさけるため、売上累計から中間生産物の価額を差し引くことで得られる。そして、この価額は最終生産物の価額と一致する。



 A・B・Cの3企業の売上累計は60億円である。しかし、パンを作っているC製パンの生産額30億円のうち、20億円分はB製粉が生産した小麦粉を原料としており、Cが産み出した価値は(3)の10億円である。同じように、Bの生産額のうち10億円分はA農場が生産した小麦を原料としており、Bが産み出した価値は(2)の10億円である。A農場が産み出した価値は(1)の10億円である。そこで

  (10億円+20億円+30億円)-(10億円+20億円)
 =30億円

となり、最終生産物であるパンの価額と一致する。

  GDP=売上累計-中間生産物の価額

(2)国民総生産(GNP)

 海外の日本人と日本企業が産出した財とサービスの総額を海外からの要素所得、国内の外国人と外国企業が産出した財とサービスの総額を海外への要素所得という。海外からの要素所得から海外への要素所得を差し引くと、海外からの純所得が計算できる。国内総生産(GDP)に海外からの純所得を加えると、1年間に一国民が産み出した財とサービスの総額である国民総生産(GNP)が計算できる。最近では、GNPに代わって、国民総所得(GNI)が用いられている。

  海外からの純所得=海外からの要素所得-海外への要素所得
  GNP=GDP+海外からの純所得



2.国民純生産と国民所得

(1)国民純生産(NNP)

 GDPやGNPには、建物や機械など固定資本にかかった費用が含まれている。これらは、一定期間使えば、壊れてしまうので、1年間に減じた固定資本の価値を計算し、それを差し引かなければならない。これを固定資本減耗(減価償却費)という。GNPから固定資本減耗を差し引くと、国民純生産(NNP)が計算される。これが、純粋に一国民が新たに生産した価値(付加価値)の総額である。

   NNP=GNP-固定資本減耗

(2)国民所得

 最初の出発点である売上累計は、市場価格で計算されているので、間接税が含まれ、その分だけ高くなっている。逆に、政府が企業にあたえる補助金は含まれていないので、その分だけ安くなっている。したがって、国民が得る新たに生産された価値の総額を算出するためには、NNPから間接税を引き、補助金を加えなければならない。こうして計算されたのが国民所得(NI)である。

   NI=NNP-間接税+補助金

2017.11.27 | ├ 経済の基本 | トラックバック(0) | コメント(2) |

1.金融不安

(1)「バブル経済」とその崩壊

 1985年のプラザ合意以後、円高傾向が急速に進んだ。「円高不況」の対策として、日本銀行は公定歩合を戦後最低の水準にまで引き下げた。これによって、だぶついた大量の資金が土地・株式などの投機に流れ、その価格は異常に騰貴した。これが「バブル経済」である。このとき、銀行など金融機関は土地や建物を担保として多額の融資を行った。

 地価や株価の高騰を問題視した政府は、日銀に公定歩合を引き上げさせ、土地取引きの規制強化を図った。1990年代の初めから株価・地価は下落して「バブル経済」は崩壊した。

(2)不良債権問題と金融不安の高まり

 担保額が融資額を割り込んだ土地や建物を不良債権という。「バブル経済」崩壊の結果、金融機関は多額の不良債権を抱えることとなった。1998年は、実質経済成長率が戦後2度目のマイナス成長となり、不良債権を抱えた北海道拓殖銀行や山一証券をはじめとする多くの金融機関が破綻し、金融不安が高まった。

(3)BIS規制と「貸し渋り」問題

 国際決済銀行(BIS)は、国際的な銀行間取引の結果、銀行倒産の影響が海外に及ぶことを恐れ、自己資本比率8%未満の金融機関の国際業務を禁止するという規制を設けた。これがBIS規制である。日本では、国内業務に特化した金融機関も、自己資本比率が4%未満になったら、早期是正措置がとられることになった。このため、金融機関は貸付に消極的となり、中小企業が貸付を受けられない問題が発生した。これを貸し渋りという。


2.金融の自由化

 日本では、金融機関に対する規制と保護が行われており、護送船団方式と呼ばれていた。しかし、日本経済の飛躍的成長と海外からの批判もあって、金融の自由化が段階的に進められてきた。これには、金融機関の競争を促進し、より効率的で利用者本位の金融をめざすという狙いもあった。

(1)金利の自由化

 金利の自由化は、1979年の譲渡性預金(CD)の導入からはじまり、93年に定期預金の金利自由化と、94年の普通預金の金利自由化で完成した。

(2)業務の自由化

 子会社方式による相互参入が、1993年に銀行と証券で、96年に生命保険と損害保険で可能となり、業務の自由化が進んだ。

(3)金融ビッグバン

 1996年に提唱された金融制度改革を金融ビッグバンという。1986年にイギリスで行われた改革と区別するために「日本版ビッグバン」ともいう。その原則は3つである。
  1. フリー(自由)…規制緩和によって自由な取引を可能とする。
  2. フェア(公正)…情報公開によって公正な取引を担保する。
  3. グローバル(国際化)…規制緩和によって海外との自由な取引を可能とする。

(5)持株会社の解禁

 持株会社は、戦後の財閥解体によって禁止されてきたが、1997年に独占禁止法が改正され、解禁された。

(4)金融の国際化

 日本では、外国為替管理法によって、外国為替取引は外国為替公認銀行を通じて行わなければならなかった。1998年に同法を外国為替法に改め、個人や企業が自由に外国為替取引ができるようになった。これを金融の国際化という。


3.金融制度改革

(1)日銀法の改正

 1997年、日本銀行法(日銀法)が改正され、日本銀行の政府からの独立性を強化した。これによって、財務大臣の業務命令権や内閣の総裁解任権が廃止され、政策委員会の権限が強化された。

(2)金融庁の成立

 日本の金融は長らく大蔵省(財務省)の管轄下にあった。1998年、金融の検査・監督部門を大蔵省から独立させ、金融監督庁が設置された。また、金融機関の破綻処理と公的資金による資本注入のため、金融再生委員会が発足した。2001年、大蔵省の金融の企画・立案部門を切り離し、金融監督庁・金融再生委員会とともに統合して金融庁が設置された。

(3)ペイオフ制度

 ペイオフとは、預金などの金融商品について、一定限度まで元利の払い戻しを保証する制度で、2005年に完全実施された。預金保険機構が、当座預金などは全額、普通預金・定期預金などは一つの金融機関あたり元本1000万円とその利息を保証する。


4.ゼロ金利政策と量的緩和

 長びく不況とデフレから脱出するため、1999年に日銀は、短期コールレートをほぼ0%にするゼロ金利政策を実施した(~2000年/01~06年)。しかし、デフレが止まらなかったので、2001年、日銀が各金融機関の当座預金残高を増やす量的緩和政策を実施した(2001~06年)。

 両政策は景気回復によって2006年に解除されたが、2008年のリーマン=ショックで2010年にゼロ金利政策を三度、導入した。


5.リフレ政策とアベノミクス

 リーマン=ショック後に成立した民主党政権は、デフレに対して有効な対応ができず、2011年に東日本大震災が起き、経済の停滞が続いた。

 リフレーションとは、デフレから抜け出たが、本格的なインフレには達していない状態をいう。金融政策や財政政策を通じて有効需要を創出することで景気の回復をはかり、他方ではデフレから脱却しつつ高いインフレの発生を防止しようとする政策をリフレ政策という。

 2012年末に成立した自民党の安倍晋三内閣は、リフレ政策を含むアベノミクスを採用した。
  1. 大胆な金融政策…2%のインフレ目標、無制限の量的緩和、円高の是正
  2. 機動的な財政政策…大規模な公共投資(国土強靭化)、日銀による建設国債の買い入れと長期保有
  3. 民間投資を喚起する成長戦略

2017.11.22 | ├ 経済の基本 | トラックバック(0) | コメント(0) |

1.日本銀行の業務

 日本の中央銀行である日本銀行(日銀)は、その業務から次の三つの役割がある。
  1. 発券銀行…日銀は日本銀行券(日銀券)とよばれる紙幣を発行する。
  2. 銀行の銀行…日銀は、市中銀行を相手に、預金の受け入れや貸し出しなどを行う。この貸し出しなどを通じて日銀券が発行されることになる。また、市中銀行は、他の銀行との手形や小切手などの取引を、日銀への預金残高を帳簿上でプラス・マイナスすることで決済している。
  3. 政府の銀行…日銀は、政府の取引銀行として、税金などの歳入金を預金として受け入れ、歳出金の支払いにあてている。また、政府が国債を発行する仕事を代行している。

2.マネーストック

(1)通貨の種類
  1. 現金通貨:日本銀行券(紙幣)と補助貨幣(硬貨)。
  2. 預金通貨当座預金・普通預金など。
  3. 準通貨…定期性預金:定期預金・定期積立など。
  4. 譲渡性預金(CD)…他人への譲渡が可能な無記名の定期預金
  5. その他:金銭の信託、投資信託、金融債、社債、国債、外債など。
  ※ 小切手手形を振り出すための預金。企業間の決済は小切手や手形を使って行われる。小切手は当座預金残高までしか振り出せないが、手形は、期日までに入金できれば、残高を超えて振り出すことができる。

(2)マネーストック

 日本国内で流通している通貨の量を通貨供給量(マネーストック)という。

【マネーストックの種類】

発行主体
  1)日本銀行、ゆうちょ銀行を除く国内銀行、外国銀行在日支店、信用金庫・信金中金、農林中央金庫、商工組合中央金庫等の国内金融機関
  2)ゆうちょ銀行、農協・信農連、漁協・信魚連、労金・労金連、信用組合・全信組連

(3)マネーストックとマネタリーベース

 後述する金融政策では、マネーストックの量をコントロールすることで、景気の調整を図っている。しかし、マネーストックの量を直接コントロールすることはできないので、マネタリーベースの量をコントロールすることで、マネーストックの量をコントロールしようとしている。

 マネーストックは、下図のとおり、現金と民間からの預金の合計である。これに対して、マネタリーベースは現金と金融機関の日銀当座預金の合計である。マネーストックの量を厳密に知るのは難しいので、通常はM2をマネーストックとしている。




3.金融政策

 日銀は、景気を回復させ、物価を安定させるために、通貨供給量を調整している。これを金融政策という。金融政策には、通貨供給量を増やす金融緩和政策と、減らす金融引き締め政策がある。
  1. 金融緩和政策…不況・デフレの場合
  2. 金融引き締め政策…景気過熱・インフレの場合

 日銀の最高意思決定機関は政策委員会である。1998年の日銀法の改正によって、独立性が強化された。委員会は、総裁、副総裁2名、審議委員6名の計9名で構成される。政府から財務大臣と内閣府の2人が出席できるが、議決権は持たない。

(1)公開市場操作

 日銀が、金融市場で国債などの有価証券を売買することによって、通貨供給量を調節することを公開市場操作(オープン=マーケット=オペレーション)という。日銀がもっとも重要視している金融政策である。
  1. 買いオペレーション(買いオペ)…不況・デフレ:金融緩和政策。日銀が、市中銀行から債券を買い取って、民間に資金を放出する。
  2. 売りオペレーション(売りオペ)…景気過熱・インフレ:金融引き締め政策。日銀が、市中銀行に債券を売り、民間から資金を吸いあげる。

(2)金利政策

 市中銀行が資金を融通してもらうときの金利を操作するので、金利政策という。市中銀行が他の銀行から短期資金を融通する際の金利を短期コールレートという。これを日銀が、政策金利として操作することで、通貨供給量を調整する。
  1. 政策金利の引き下げ…不況・デフレ:金融緩和政策。銀行は資金を借りやすくなり、貸し付け額が増加する。
  2. 政策金利の引き上げ…景気過熱・インフレ:金融引き締め政策。銀行は資金を借りにくくなり、貸し付け額が減少する。
 日銀が市中銀行に資金を貸し付けるときの金利を公定歩合という。日銀が景気の動向に合わせてこれを上げ下げすることを公定歩合操作という。操作は政策金利と同じ。かつては金融政策の中心であったが、金利の自由化以降、実施されなくなった。2006年から「公定歩合」の名称も「基準割引率および基準貸し付け利率」に変更された。

(3)預金準備率操作

 市中銀行は、預金の一部を支払い準備金として日銀に預金し、残りを貸し付けや投資にまわしている。日銀は、支払い準備金の利率(支払い準備率=預金準備率)を引き上げたり、引き下げたりすることで、銀行が貸し付けや投資にまわす資金の量を調整する。これを預金準備率(支払い準備率)操作という。
  1. 預金準備率の引き下げ…不況・デフレ:金融緩和政策。銀行は貸し付け額や投資額を増加させる。
  2. 預金準備率の引き上げ…景気過熱・インフレ:金融引き締め政策。銀行は貸し付け額や投資額を減少させる。

 しかし、預金準備率操作は、わずかな上げ下げで通貨供給量を大幅に変動させてしまうため、細かな調整には不向きである。そのため、1991年以降は実施されていない。

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1.金融機関

 おもな金融機関は次のとおりである。




2.銀行の業務
  1. 預金業務…個人や企業から金を預かる業務:当座預金・普通預金・定期預金・通知預金*1・譲渡性預金(CD)*2など。
  2. 貸付業務…預金を元手に資金を貸し出す業務:証書貸付*3・手形貸付*4・手形割引*5・当座貸越*6・コール資金*7など。
  3. 為替業務…遠方に送金するとき、銀行に金を振りこみ、銀行間の決済によって相手に支払ってもらう業務:内国為替と外国為替。
  4. その他:証券業務・保険業務など…1990年代の「金融の自由化」以降。
  *1 高い金利で運用され、最低7日間据え置き、引き出す2日前に通知する。
  *2 無記名の預金証書を発行し、金融市場で自由に譲渡できる。
  *3 貸付先から借用証書を徴収する貸付方法。
  *4 借用証書の代わりに手形を振り出させ、手形額面から満期までの利息を差し引いた金額を貸付る。
  *5 支払い期日前の手形を、期日までの利子を差し引いた金額で、買い取ること。
  *6 融資の限度額を設定し、その範囲内で自由に資金を借りたり返したりできる融資方法。
  *7 金融機関の間で貸し借りされるごく短期の大口資金。

3.銀行の信用創造

(1)信用創造のしくみ

 銀行に預金をした場合、預金者は必要に応じていつでも銀行から預金を引き出せる。しかし、すべての預金がいっせいに引き出されることはないので、銀行が預金の引き出しに備えて用意しておく現金支払い準備金は、預金全体のほんの一部でよく、残りの大部分は貸し付けなどにまわすことができる。貸し付けられた資金は、いろいろな取引などに使われるが、再びどこかの銀行に預金される。このような過程をくり返すと、銀行全体としては、最初の預金額の何倍もの預金をつくりだすことになる。これを銀行の信用創造という。



 図のような連鎖が途切れることなく続くとすると、理論上考えられる預金の総額は、以下の式から求められる。

   信用創造=最初の預金÷支払準備率-最初の預金

最初の預金が100万円で、支払い準備率が10%とすると、

   100万÷0.1-100万=900万

となり、900万円が新たに産み出されることになる。

(2)信用創造のはたらきと金融危機

 信用創造は、当初の通貨供給の何倍もの資金供給が発生するしくみである。これによって、資金不足に悩んでいる企業に資金を提供し、経済活動を活発化させる。

 しかし、借り手が滞りなく債務を返済できないと、貸付は不良債権となる。不良債権の増加は、預金者を不安にさせ、預金の引き出しが殺到して取り付け騒ぎが起こり、その金融機関は破綻する。ひとたび金融機関が破綻すると、その金融機関から融資を受けていた企業は、資金調達が困難になり、連鎖倒産が起こる。この企業が他の金融機関から融資を受けていると、その金融機関に不良債権が発生する。この連鎖が大規模に発生したのが金融危機である。

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1.金融の役割

(1)金融

 金融とは、資金の借り手と貸し手との間を橋渡しして資金の融通をはかることである。
  1. 企業…運転資金の不足や設備投資のため、自己資本だけでは足りない。⇒借り手
  2. 家計…さしあたり必要でない資金や老後の生活のための貨幣が貯蓄されている。⇒貸し手

(2)金融市場

 このような資金の貸し借りをおこなう市場を金融市場という。
  1. 短期金融市場…1年未満の短期資金が取引される。
  2. 長期金融市場…年以上の長期資金が取引される。

2.直接金融と間接金融

 金融にはつぎの2種類がある。
  1. 直接金融…企業が有価証券(株式や社債など)を発行して長期にわたる設備資金を集めること。企業は、その資金を運用して得た利潤の中から、株式には配当、社債には利子を支払う。これを仲介するのが証券会社で、有価証券は証券市場で自由に売買される。
  2. 間接金融…家計が銀行などの金融機関に預金し、金融機関は、その資金を企業に貸し付けたり、証券投資(株式・社債の購入)を行う。企業は借入金の利子や配当を銀行に支払い、銀行はその一部を預金利子として家計に支払う。

【金融と資本の関係】


※ 他に減価償却積立金など。

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 価値が一定量の金属と関係づけられ、一国の基本となる貨幣を本位貨幣という。これに、銀行券、補助貨幣(硬貨)、政府紙幣、さらに預金通貨を加えたものを通貨という。しかし、現在、貨幣と通貨はほとんど同じ意味で使われている。

1.金本位制

 近代的な通貨制度は、金本位制からスタートした。これは、1816年にイギリスがはじめ、その後、各国で採用されるようになった。

(1)金本位制のしくみ

 金本位制は、を本位貨幣とする通貨制度であり、金または金貨との交換が保証された兌換紙幣が発行される。兌換紙幣は金または金貨との引き換え券のようなもので、発行当局は金または金貨の準備高以上に発行することはできない。したがって、兌換紙幣の価値は安定するという長所がある。

(2)金本位制の機能

 国際取引は、世界貨幣である金で決済されるから、金本位制は、金の輸出入の自由を前提として、国際収支の均衡化をもたらす。

 1)好景気が続くと、需要が拡大して、物価が上昇する。2)輸入が増加するとともに、価格競争力が低下して輸出が減少し、3)国際収支が赤字になる。4)その支払いのために金が流出するので、5)中央銀行の金準備は減少する。それとともに、6)発行できる通貨が少なくなり、金利が上昇する。その結果、7)景気が抑制され、物価が下落する。



 1)不景気が続くと、需要が縮小して、物価が下落する。2)輸入が減少するとともに、価格競争力が強化されて輸出が増加し、3)国際収支が黒字になる。4)その支払いによって金が流入するので、5)中央銀行の金準備は増加する。それとともに、6)発行できる通貨が多くなり、金利が下落する。その結果、7)好景気となり、物価が上昇する。


2.管理通貨制への移行

 第一次世界大戦により、イギリスなどヨーロッパ諸国は、アメリカからの武器輸入のために金流出が続いたため、金の輸出を禁止し、金本位制を一時停止した。戦後、各国は金の輸出を自由化して金本位制に復帰した。これを金解禁という。しかし、このころ各国の経済は戦後の一時的安定期から、大恐慌の時代へと突入しつつあった。経済恐慌が深刻化すると、企業の倒産や失業が増大する。そこに金解禁にともなう金の流出や物価下落がおこると、国内経済はいっそう不景気になる。そこで各国は、金本位制の維持による貨幣価値の安定よりも、国内経済の安定と景気の回復を重視して、いっせいに金本位制をやめて管理通貨制へと移行したのである。


3.管理通貨制

(1)管理通貨制のしくみ

 管理通貨制は、金または金貨の準備高とは無関係に通貨を発行できる制度である。したがって、金との交換が保証されていない不換紙幣が発行され流通する。われわれが持っている現在の「お札」がこれである。しかし、無制限に発行すればインフレになるから、政府または中央銀行が発行量を管理する。

(2)管理通貨制の特色

 管理通貨制では、経済情勢に合わせて、人為的に通貨量の管理ができるから、財政・金融政策を通じて経済の安定や景気の調整をはかることができる。その反面、通貨が増発されやすいので、貨幣価値が下落してインフレを招きやすい。

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1.貨幣の発達

 貨幣は、歴史的に、つぎのように発達してきた。
  1. 物品貨幣…物々交換の過程でだれもが交換に応ずるような特定の品物:生活必需品の塩・布・稲や装飾品の貝がら・象牙など。
  2. 鋳造貨幣…国家によって、一定の目方・品質・形に鋳造され、持ち運びに便利な金貨・銀貨・銅貨など。
  3. 信用貨幣…それ自体には価値のない紙幣・手形・小切手など。

2.貨幣の機能

 貨幣には、つぎの5つの機能がある。

(1)基本的機能
  1. 価値尺度…価値を計るモノサシ。
  2. 交換手段…商品交換の仲だち。

(2)派生的機能
  1. 貯蔵手段…富をたくわえる。
  2. 支払手段…信用取引を清算する。
  3. 世界貨幣…国際取引を決済する。

 これらの機能をすべてもちあわせているのは、だけである。だから、人々は、社会の混乱や通貨不安に際して、いちばん頼りになる金をためこもうとするのである。

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VI. 中国の社会主義


1.中国経済の混乱と停滞


  1840年のアヘン戦争勃発以来、中国では列強の侵略と国内の混乱が続き、1949年に社会主義国である中華人民共和国が成立した。

  中国共産党は、土地革命を実施して、大地主から土地を没収し、「耕す者がその土地をもつ」という自作農制がひとまず施行された。そして、農家どうしの共同組織として農業合作社の設立・共営が奨励された。1958年から毛沢東の指導のもとに、急速な工業化がはかられ、大躍進と呼ばれた。農村では、地域を単位とする住民全員で構成される人民公社に編する運動が展開された。

  しかし、現実を無視した急速な工業化は失敗し、それに自然災害も加わって、60年代には中国の経済建設は著しい停滞に直面した。毛沢東は国家主席の座を劉少奇に渡し、鄧小平ら「実権派」による経済発展がはかられた。

  毛沢東とその側近は、1966年、学生など若い世代に革命の意義を学ばせるという趣旨で、文化大革命を開始した。紅衛兵と呼ばれた若者たちは、「造反有理」を合い言葉に、「実権派」を批判し、彼らを失脚させた。文化大革命は、その後、10年間にわたって展開され、合理主義否定、技術軽視の弊害をもたらし、いたずらに伝統文化を破壊して終わった。


2.改革・開放路線


  1976年、毛沢東が死ぬと、側近も失脚し、代わって実権を握った鄧小平は、農業・工業・国防・科学技術の「四つの現代化」推し進め、人民公社は廃止された。先進資本主義国の企業がもつ資本や技術を導入して経済発展をはかる改革・開放路線が採用された。

  (1)生産責任制…1982年以後、農家に生産を請負わせる「包幹到戸(ほうかんとうこ)」と、農家が耕作を請負って超過分を農家の収入とする「包産到戸」が行われた。その結果、「万元戸」とよばれる富裕農家も生まれ、農民の勤労意欲と食糧生産は向上した。

  (2)経済特区…1979年から、南部沿岸の厦門(アモイ)・仙頭(スワトウ)・深■[土へんに川](シェンチェン)・珠海(チューハイ)・海南(ハイナン)省の5地域を指定し、外国資本の進出をうながした。外国資本との共同出資企業(合弁企業)が認められ、香港などの華人資本や日本資本が進出した。

  (3)郷鎮企業…国営企業に対して、地方行政機関である郷や鎮、さらに個人が経営する中小企業である。1984年ころから農村の余剰労働力を吸収して急増した。


3.社会主義市場経済


  1993年の憲法改正で、社会主義市場経済が採用され、市場経済が本格的に導入されることになった。株式会社の設立や株式の売買もさかんになり、各産業部門では、生産物が市場で取り引きされ、価格もそこで決められようになった。その結果、高い経済成長を達成し、「世界の工場」としての役割をはたすようになっている。

  1997年にイギリスから香港が、99年にポルトガルからマカオが返還された。これらは、特別行政区と規定され、50年は資本主義経済が認められる「一国二制度」となった。

  しかし、一方で貧富の格差の増大、とくに都市と農村の格差や、経済犯罪、汚職の増加、環境破壊などの問題も大きくなっている。


4.ベトナムのドイモイ


  ベトナムは社会主義国であるが、1986年からドイモイ(刷新)とよばれる開放政策を採用した。個人経営を認め、食品や生活消費財の生産を重視した結果、急速な経済成長を遂げている。

2016.05.04 | ├ 経済の基本 | トラックバック(0) | コメント(0) |

V. 社会主義経済の変容


1.ソ連経済の矛盾


  1928年以降、ソ連では、土地や重要産業は国有化され、数回にわたる5か年計画が実施された。電化と鉄鋼生産を重視して重工業を中心に急速な経済成長を遂げた。

  第二次世界大戦後の東西冷戦の時代には、軍需産業に重点が置かれ、国民の生活と直結する軽工業は軽視されてきた。そのため、国民の不満も生じ、企業の運営面でもノルマの達成だけを考え、自発的に効率をあげる試みは放棄され、労働者の勤労意欲も低下した。また、生活水準の向上による消費の多様化に計画経済による生産が対応できず、資源の適正な配分に失敗するなどの欠陥が表面化してきた。

  このような欠陥に対して、企業ごとの独立採算制を導入したり、ノルマ以上の成果をあげた企業・労働者に報奨を与えて、労働意欲を高めて経済効率の向上をはかる利潤導入(リーベルマン)方式(リーベルマンは考案した経済学者)の新経済政策がとられたが、効果はみられなかった。


2.ソ連の解体と経済改革


  1985年に登場したゴルバチョフは、市場メカニズムを取り入れることで経済の再建をめざすペレストロイカをすすめた。しかし、経済・政治のいきづまりから、1991年にソ連は解体した。ロシア連邦をはじめとして、旧ソ連から独立した15の共和国は、資本主義経済を採用することになった。

  ロシアでは、1991年の憲法改正により私有財産制が認められ、国営企業を株式会社に改編することも徐々に進められ、証券取引所も開設された。そして、各企業は、原材料の入手、製品の販売先の選定や価格の形成も、市場原理にしたがうことになった。

  しかし、資本調達のための市場は整備されておらず、外国資本の導入が遅滞しており、企業に資金を供給するための銀行は多数設立されたものの、その原資はもっぱら中央銀行の無制限な融資に頼っているため、激しいインフレが起こるなどの混乱が生じた。1998年には通貨ルーブルが暴落するルーブル危機に直面した。

  2000年代に入ると、中国・インド・ブラジルなど発展途上国が経済成長し、エネルギー需要が高まった。ロシアは、産油国であり、石油価格の高騰を背景に、経済を回復させ、さらに成長へと変化した。

2016.05.04 | ├ 経済の基本 | トラックバック(0) | コメント(0) |