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朝鮮王朝は日本より遅れていて、それを近代化させたのは日本の朝鮮統治である、といった言説がネトウヨによってネットで開陳されているが、このような議論は今に始まったわけではない。彼らにネタを提供した高崎経済大学教授・八木秀次氏が「ちょっと言いにくいんだけど、昔、日本では停滞史観だといって批判されたけど、どうも僕は、長い間やっていた感触として、李朝はインカ帝国に似ていないか」と言っているように、これは「アジア停滞論」の変種なのだ。


「アジア停滞論」とは、1930年代に登場し、その後、1960年代に再び現れた、アジア社会は、ヨーロッパとは異なり、停滞しているという議論である。これを言い出したのは、ソ連のマルクス主義者であり、日本のマルクス主義者もそれに同調した。

1920年代、ソ連は、孫文らの中国革命を支援していたが、蒋介石のクーデタで失敗した。その失敗をごまかすために、アジアは、ヨーロッパ(ソ連も含まれる)とは異なり、社会が停滞している(だから革命が挫折した)という議論がされるようになったのだ。このような議論は日本にも伝わっていたが、日本のマルクス主義者は、当局の弾圧で多くが転向すると、日本の植民地支配を合理化するためにアジア停滞論を利用するようになった。日本は、他のアジア諸国とは異なり、近代化に成功した。ゆえに、日本が、他のアジア諸国を近代化させてあげるため、そこを支配しなければならない。このように変質したのだった。

しかし、毛沢東ら中国共産党によって中国革命がなされたので、アジア停滞論は下火になった。ところが、1960年代になって、中ソ対立が顕在化すると、再びアジア停滞論が台頭してきた。アジアは、ヨーロッパ(ソ連も含まれる)とは異なり、社会が停滞している(だから中国革命は誤っている)という議論がされるようになった。このような議論はすぐに日本にも伝わった。そして、アジア停滞論に同調する親ソ派と、そうでない親中派との論争となった。

ただ、二回目の論争は、どちらかというと、アジア停滞論を克服する方向になり、その後のアジア史研究を大きく進めることとなった。

まず、マルクスが唱え、それをスターリンが発展wさせた歴史の発展法則がアジアにも適応できるという議論が登場する。これは、社会は原始共産制→古代奴隷制→中世封建制→近代資本制→現代社会主義と発展し、この法則はアジアにも適用できるというものだった。しかし、アジアの古代と中世は、ヨーロッパとは異なるので、まちがっているのではないかという議論になった。まず、アジアといっても、場所によって歴史が大きく異なる。東アジアと南アジア(インド)、東南アジア、内陸アジア、そしてイスラームではちがいすぎる。そして、中国や朝鮮半島では、古代に奴隷はあまり存在しなかった(現在では、古代ギリシアにも奴隷はそんなに多くなかったことがわかっている)し、中世に分権的な国家は出現しなかった(むしろ中央集権国家だった)。

そこで、アジア固有の発展法則があるのではないか?という議論になった。福冨正美氏の《総体的奴隷制→国家的封建制》論や、中村哲氏の《国家的奴隷制→国家的農奴制》論が登場する。個々の生産者が共同体に包摂されたまま「自立」していない段階で、専制国家がその共同体を共同体ぐるみ支配するのが、総体的奴隷制≒国家的奴隷制である。その共同体の内部において個々の生産者が共同体からの自立性を強め、小経営として独立してくると、それに応じて、国家が個々の「自立」した小経営を直接的に支配しようとするようになり、国家的封建制≒国家的農奴制に移行する、というものだ(小谷汪之『マルクスとアジア』青木書店、1979年。p.163)。

オモシロイのは、韓国の経済史学も似たような発展をしており、そこに日本の歴史学界の影響が強く反映していることだ。1960年代以降、まず白南雲氏によって、朝鮮社会が歴史の発展法則に沿って発展してきたという「内在的発展論」が唱えられ、続いて、朝鮮半島(韓国)独自の発展を見いだすようになった。ちなみに、中村哲氏の《国家的奴隷制→国家的農奴制》論が影響を与えていることが、李憲昶(著)『韓国経済通史』(須川英徳・六反田豊訳、法政大学出版局、2004年)にも載っていた。


まあ、そんなわけで、ネトウヨは、40年くらい前に克服された「アジア停滞論」を持ち出して、隣国をdisっているわけで、その時代錯誤ぶりには涙が出る。しかも、この議論自体が、彼らの大嫌いな左翼の理論である。脳ミソすっからかんのウヨクには、自分たちで理論をつくり出す能力がないので、このような借り物をするんだろう。しかも、「アジア停滞論」は、左翼の理論のなかでも、ソ連の正統性を主張するために捏造された「スジの悪い」理論なのだ。「類は友を呼ぶ」というが、「スジの悪い」ものは、やはり「スジの悪い」ものを呼んでしまうんだろうな。

2014.05.21 | ├ 歴史ネタ | トラックバック(0) | コメント(0) |












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