責任を家族が必ず問うわけでないという判決が出て、介護家族や介護施設の職員は胸をなでおろしている。その一方で、それでは誰が責任を負うのかという問題が残された。

 認知症の高齢者が起こした事故の責任を、家族が必ず負うわけではない――。高齢者の7人に1人が認知症という「認知症社会」を迎え、最高裁が示した判断に当事者からは歓迎の声があがった。「では、誰がどう責任を負うのか」という問題も関係者は指摘する。

     (中略)

 判決について、鉄道会社の間では「認知症の人による事故の場合、事故の損害は鉄道会社の社会的責任に含めるべきだ」と納得する一方で、「乗客が負傷する危険性を考えれば、どこも責任を負わなくていいのか」と戸惑う声もある。

 2014年度に認知症の人が当事者として死亡した鉄道事故が、全国で少なくとも22件あったことが国土交通省の調査でわかっている。事故が起きると、振り替え輸送費や車両修理費、対応した社員の人件費などが鉄道会社に生じる。「原因がはっきりしていれば、損害賠償を求めるのが基本」と各社は口をそろえる。ある私鉄によると、運転本数が多い都市部では損害額はすぐに100万円単位に。何ら請求しないと、株主から問題視される可能性があるという。

 ただ、首都圏の鉄道会社幹部は「当事者が抱えていた事情や家族構成、資産状況などを調べる。形だけ請求はするが、実際は数万円から数十万円で示談するケースもある」と明かす。

認知症事故判決「家族にとって救い」 誰が責任…課題も

父親に認知症状が出始めた頃、勝手に出かけていって、ソバを買って食べたりしていた。それだけならとくに問題はないのだが、夕食を持っていっても食べないので、心配していたら、ゴミ入れにソバのパッケージが捨ててあった、なんてことがあった。しばらくして、知らない人から声をかけられるのが不愉快だと言って出歩かなくなった。原因は、知ってる人が声をかけてきたのに、記憶障害で忘れてしまい、知らない人に声をかけられたと思っていたようだ。

その頃のことだが、東京医科歯科大学付属病院から電話がかかってきて、父親が転んでケガをしているので、家族に来てもらいたいと言われた。行ってみたら、近所の病院の前で転倒し、額から出血したので、見ていた人に病院に行くように勧められ、タクシーに乗ってわざわざ御茶の水まで行ってしまったというのだ。この病院は父親が腎臓ガンの手術を受けた病院で、検査のためしばしば通っていた。額の傷はたいしたことなく、CT検査で脳出血などがないことを確認して帰されたが、病院の前で転倒したのに、その病院じゃなくて、遠くの病院に行っていたのには、ホントに驚いた。

父親は、「要支援2」だったのに、こんな感じである(要介護認定を受けたのはかなり認知症状が改善されてから)。関節リウマチが痛いので、あまり出歩かなくても、この程度の問題は起こすのだ(転倒したのは関節リウマチのせい)。まして、この高齢者は認知症だけで「要介護4」だった。認知症の伯母がやはり「要介護4」だが、認知症と骨折による歩行困難があるからなのだ。

だから、介護家族と介護施設の職員は、このような判決が出て、胸をなでおろしたであろう。

その一方で、誰が責任を取るのかということでは、大きな課題が残った。この場合、認知症高齢者が亡くなり、ダイヤが乱れただけですんだが、認知症高齢者が運転して事故を起こし、被害者が亡くなったり、回復できないケガを負った場合は、もっとたいへんである。被害者や被害者家族が訴訟を起こしても、今回の判例のせいで、泣き寝入りさせられる恐れがあるからだ。

ただ、たとえば、認知症高齢者が高速道路を逆走することは意外と少なく(9%)、自らの運転技術を過信した高齢者が起こす方が圧倒的に多い(83%)。

高速の逆走事故と認知症

社会全体で認知症高齢者とその家族を支えるしくみが必要だと痛感した。


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認知症事故判決「家族にとって救い」 誰が責任…課題も
斉藤佑介、千葉雄高 編集委員・細沢礼輝2016年3月1日23時54分

 認知症の高齢者が起こした事故の責任を、家族が必ず負うわけではない――。高齢者の7人に1人が認知症という「認知症社会」を迎え、最高裁が示した判断に当事者からは歓迎の声があがった。「では、誰がどう責任を負うのか」という問題も関係者は指摘する。

 「大変温かい判断をして頂き、心より感謝申し上げます。父も喜んでいると思います。8年間、色々なことがありましたが、これで肩の荷が下りてほっとした思いです」。判決後、東京都内で会見した代理人弁護士が、認知症で徘徊(はいかい)中に死亡した男性の長男(65)のコメントを読み上げた。

 事故は2007年12月、愛知県大府市のJR共和駅で起きた。長男の妻は横浜市から転居して男性宅の近くに住み、介護していた。男性の自宅兼事務所の出入り口にはセンサーがあったが、一つはスイッチがオフになっており、わずかな隙に男性は外出。列車で1駅移動したうえ、線路内に下りた。

 半年後の08年5月、JR東海から書面が届いた。「損害が発生しています。一度話をさせて頂きたい」。さらに半年後には、約720万円の賠償を求める通知書が届き、10年2月に提訴された。

 「一瞬の隙もなく監視しようとすれば、施錠・監禁や、施設への入居しか残されない。それでいいのか」。裁判で争ったが一審、二審とも、「遺族には監督義務があった」とされた。

 判決を前に寄せたコメントで、長男は事故後の時間を「原告(JR東海)の強い姿勢に翻弄(ほんろう)され続けた、大変苦しい8年間でした。大企業と一個人の戦いでした」と振り返った。それでも訴訟を続けたのは、「認知症に対する理解のない会社が許せない。それが大きな原動力の一つだった」。取材にそう話した。

 もう一つの支えになったのは、裁判を通じて広がった支援の輪。介護家族らが集まる「認知症の人と家族の会」や、同じような事故で鉄道会社に賠償を求められた遺族から、応援の声が寄せられた。「多くの支えと励ましがあり、8年間戦い続けられた」という。

 遺族の代理人を務めた浅岡輝彦弁護士は、判決後の会見で、「遺族の主張が全面的に採り入れられたすばらしい判決。認知症の方と暮らす家族の方にとって本当に救いになった」と、晴れ晴れした表情で話した。

 一方で、「判決で全てが解決するわけではない。国の政策は。家族はどうするのか。責任能力がない人が起こした事故の損害回復はどうすべきかは簡単ではない」と課題も指摘した。(斉藤佑介、千葉雄高)

■「社会で支えるように」、介護家族の思いは

 同じように介護する家族は、この判決を自分に重ねて見守っていた。

 前橋市の後藤京子さん(67)は認知症の母(88)を一人で介護している。母は昼夜を問わず多い日は何度も徘徊(はいかい)し、そのたびに追いかける。地裁判決の後、名古屋高裁の長官宛てに手紙を出した。「介護家族の生活がどれほど追い詰められ、極限に達しているか知っていただきたい」

 最高裁判決について「結果としてはよかった。でも判決まで長すぎた」と話す。「認知症の人は増え、これから色んなことが起きると思う。社会全体で支えるようになってほしい」

 神奈川県鎌倉市の女性(70)は認知症の夫(77)にGPS付き携帯を持たせ、タブレット端末などで夫の位置を確かめながら見守る。「ひどい判決が出たら、夫と買い物に行くのも旅行に行くのも不安だった。本当によかった」と話した。

 「ほんとにうれしいし、よかった」。認知症の人と家族の会(京都市)の高見国生代表理事は判決後、言葉を詰まらせながら語った。判決内容を会のメンバーにメールで伝えたところ、「うれしい」「泣いている」と返事が届いたという。「介護の大変さや認知症の実態を、裁判官に知ってほしいと訴えてきた。それが通じたと思っている」

 認知症の人のグループホームを運営するNPO法人(埼玉県)代表理事の小島美里さんは「画期的な判決。認知症の本人、家族の介護の苦労を身近に見ている者としてうれしい」と喜んだ。一方で「専門職でも事故をゼロにすることはできない。社会全体でリスクを負う方策を考えることが大切だ」と話した。

■「どこも責任を負わなくていいのか」 鉄道会社に戸惑いも

 判決について、鉄道会社の間では「認知症の人による事故の場合、事故の損害は鉄道会社の社会的責任に含めるべきだ」と納得する一方で、「乗客が負傷する危険性を考えれば、どこも責任を負わなくていいのか」と戸惑う声もある。

 2014年度に認知症の人が当事者として死亡した鉄道事故が、全国で少なくとも22件あったことが国土交通省の調査でわかっている。事故が起きると、振り替え輸送費や車両修理費、対応した社員の人件費などが鉄道会社に生じる。「原因がはっきりしていれば、損害賠償を求めるのが基本」と各社は口をそろえる。ある私鉄によると、運転本数が多い都市部では損害額はすぐに100万円単位に。何ら請求しないと、株主から問題視される可能性があるという。

 ただ、首都圏の鉄道会社幹部は「当事者が抱えていた事情や家族構成、資産状況などを調べる。形だけ請求はするが、実際は数万円から数十万円で示談するケースもある」と明かす。

 事故防止のため、鉄道各社はホームや踏切の安全対策に取り組む。ホームドアは昨年9月末時点で全国621駅に設けられ、06年度末からほぼ倍増。踏切内に人や車がいることを検知する保安装置も整備が進む。

 鉄道会社の幹部は「裁判を通じて、認知症の人が起こした事故について、社会的には免責を容認する雰囲気が強いとわかった。ホームで駅員に積極的に声をかけさせるなど、事故防止に一層力を入れる必要がある」と話す。(編集委員・細沢礼輝)

2016.03.02 | 時事ネタらしきもの | トラックバック(0) | コメント(0) |












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