稲川淳二氏の実話怪談「生き人形」の怪異の一つに、生き人形の手足がねじけていたというのがある。



この舞台では、右手右足にケガをするスタッフが続出するという怪談である。

ところが、最近、「生き人形ブログ」というブログを見つけ、そこにあった資料を読んでいたら、どうも最初からねじけてつくられていたのではないか、という疑問がわいてきた。

「生き人形」で稲川氏が座長として演じた舞台「呪夢千年」(永久保貴一氏のマンガでは「呪女十夜」となっている)の脚本を書いた佐江衆一氏が『朝日ジャーナル』に書いた「魂の核心を撃つ手負いの思想」という、石牟礼道子[著]『天の魚』にかんする記事がある。

呪夢千年と水俣病(公害問題)との関係について

佐江氏は、1934年に東京都台東区蔵前に生まれ、1944年に宮城県白石市に疎開し、その後、生家は東京(下町)大空襲で焼失した。栃木県小山市の母の実家に移り、その後、茨城県古河市に住んだ。1952年、栃木県立栃木高等学校卒業後、日本橋の丸善に入社した。翌年、中央労働学院に入学し、中野重治、徳永直、佐多稲子等に学び、学芸専門科を卒業した。その後、詩人、小説家として活躍し、1975年「呪夢千年」の脚本を書いた。

稲川氏の「生き人形」では、脚本執筆直後に火事になり、家が全焼したことになっている。ちなみに、永久保マンガでは「斎藤潤」という名前で登場する。




この直前に書いたのが「魂の核心を撃つ手負いの思想」で、『朝日ジャーナル』1975年2月7日号に掲載された。その冒頭に以下の文章がある。

 やはり患者と思われる母親は、少女を湯に浮かすようにして半ば身をこごめて、私を見返している。手足の骨のねじれている盲目の娘を、決して見せまいとして。あるいは、よく見せようとして。その相反するふたつの行為は、光の乏しい粗末な湯殿で胎児性水俣病の娘に湯をあびさせているこの漁師の母親にとって、終わることのない苦難と同じ意味をもつ。口重く舌重い彼女は、決して話しかけはしない。母と子は深い闇から浮かびでたようであり、同時にまた、まがまがしい時代の闇のうち深くへ、そのままの姿で墜ちてゆきそうである――。

 ユージン・スミス氏が撮影した水俣の母と子の写真を、私の狭い仕事部屋のドアに貼りつけてから数年がたつ。命ながらえていないかもしれぬその母子のまなこを、常に私自身の背にねじこんでおきたいからだが、しかしその自分を腑分けしてみるとき、現代に生きる民衆の一人として、戦後市民社会の枠内で形成されてきた通俗的視座をもまた、苦々しくも認めないわけにはいかない。(後略)

前掲書57ページ

石牟礼道子の『天の魚』は、有名な『苦海浄土』の続編で、訴訟と並行して、チッソとの「自主交渉」を行った川本輝夫グループにかんする話が中心となっている。そこから佐江氏は「手負いの思想」を導き出すのだが、それは別の記事で論じる。

ここにある「ユージン・スミス氏が撮影した水俣の母と子の写真」とは、有名な「入浴する智子と母」のことである。これは、胎児性水俣病の上村智子(1956-77)さんは「手足の骨のねじれている盲目」であり、彼女を入浴させる母の写真は当時大きな反響があった。この写真、現在は遺族の申し入れで公開されていないが、「入浴する…」というタイトルでネット検索すれば見ることができる。それを佐江氏は、「私の狭い仕事部屋のドアに貼りつけ」ており、それは「その母子のまなこを、常に私自身の背にねじこんでおきたいからだ」と書いている。

「生き人形ブログ」には「呪夢千年」の台本が掲載されており、読むことができる。

呪夢千年の台本
呪夢千年の台本(テキスト・バージョン)

この「第四景」の前半に見世物小屋で奇形の躰を見世物にされる少女人形の場面がある。

この場面のために、上村智子さんをモデルに、手足のねじけた人形がつくられたのではないか、と考えているのだ。

稲川氏の「生き人形」には、少女人形は、早変わりするために、頭は一つだが、胴体は二つあったという。



胴体の一つが出てきたと電話があり、そこに行くが、誰も電話をかけていないという怪談になるわけだ。

「第四景」のために、手足のねじけた胴体がつくられ、それ以外ではそうでない胴体が使われたのではないか。つまり、生き人形の胴体の一つは最初から手足がねじけてつくられていたのではないかという疑問である。

もしそれがそのとおりだったら、「少女人形の手足がねじけていた」という怪異が一つ減ってしまうので、実話怪談を楽しむという点からはじつに無粋なことをしているのだが、事実を知りたいという欲望からこのような仕儀にいたったわけである。

2017.06.02 | 心霊 | トラックバック(0) | コメント(0) |












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